夏休みに算数を忘れるのは本当?

この記事の内容
はい。「サマースライド」と呼ばれる夏休みのあいだの学力の落ちこみは、研究でも報告されている現象です。練習しない期間が長く続くと、算数をふくむ学力は少しにぶる傾向があります。
結論から言うと:低学年の子の多くで夏のあいだに落ちるのは、計算の速さやなめらかさで、理解そのものではありません。毎日の練習を再開すれば、何か月もかからず、2週間ほどでもどるのがふつうです。2学期のはじめにもたつくのは、夏の過ごし方が悪かったしるしではなく、長い休みのあとならだれにでも起こる自然なことです。
私たちは小さな子ども向けの数のアプリをつくっていて、毎年、アプリの利用データにもこの流れがあらわれます。夏のあいだは利用が減り、学校のリズムがもどると、最初の1〜2週間で正答率がもとの水準へと上がっていきます。ここでは、研究で実際にわかっていること、日本の小学生にとってはなぜ言われるほど大きな問題ではないのか、そして始業式の前に落ち着いて準備する方法をまとめます。
「夏休みに算数を忘れる」は本当?
おおむね本当です。教育研究では、長い休みのあいだに学力が少し落ちることが何十年も前から報告されていて、よく引用される米国の研究のまとめ(Cooperら、1996年)でも、影響がいちばん大きかったのは計算と(英語の)つづりでした。決まった事実や手順を思い出す力は、読む力よりも、くり返し使うことに支えられているからだと考えられています。ただ、どれくらい落ちるかは研究や年齢、はかり方によってかなりちがうので、ネットで見かける具体的な数字は少し割り引いて読んでください。確かなのは「少し落ちる」という傾向で、どれだけ落ちるかの正確な数字ではありません。
それに、この種の研究の多くは、夏休みが10週間前後ある米国のものです。日本の公立小学校の夏休みは、地域によりますが7月下旬から8月末までのおよそ5〜6週間で、北海道など寒い地域ではもっと短く、8月下旬に2学期が始まる地域もあります。しかも多くの学校で、計算ドリルや夏休み用のワークが宿題に出ます。日本の子にとっての「夏の落ちこみ」は、もともと小さめだと考えてよいでしょう。
低学年の子では、なぜ言われるほど大きくないの?
多くの人が思いうかべる落ちこみは、実際に低学年の子に起こることより大きく、取りもどすのにも時間がかかるイメージです。実際には小さめですむ理由が2つあります。ひとつ目は、いちばん早く薄れるのはなめらかさ(答えがどれだけすっと出てくるか)で、理解(その答えが何を意味するかがわかっていること)ではない、ということです。そして、なめらかさは、思い出す練習を再開すればすぐにもどってくる力です。
ふたつ目は、この年ごろの算数の多くが、もともとプリントの外で起きていることです。階段を数える、おやつを分ける、ゲームで遊ぶ。机に向かう練習のない夏でも、算数がまったくない夏になることは、まずありません。家族でトランプをしたり、すごろくで遊んだりするだけでも、数を読む、くらべる、数えるといった力は、夏のあいだずっと使われています。

1年生・2年生の夏休みは、算数のどのあたり?
1年生の1学期は、10までの数、いくつといくつ、くり上がり・くり下がりのないたし算とひき算が中心です。2学期には20までの数が出てきて、たとえば10月ごろにくり上がりのあるたし算、11月ごろにくり下がりのあるひき算へと進みます。2年生は2学期の10月ごろから、かけ算と九九が5の段・2の段から始まります(どちらも時期は教科書や学校によって少しちがいます)。つまり夏休み明けに向けていちばん効く準備は、1年生なら「あといくつで10?」の感覚、2年生ならくり上がりのあるたし算と、2とび・5とびの数え方です。
何が落ちて、何が残る?
| 力 | 長い休みのあいだに起こりやすいこと |
|---|---|
| 数を唱える・物を数える | たいていしっかり残る。学校だけでなく、ふだんの生活でずっと使われているから |
| 覚えた計算(10までのたし算・ひき算、九九) | 最初はいちばん「さびた」感じがするが、思い出す練習を始めると、いちばん早くもどる |
| 数の感覚(くらべる、まとめる、量がわかる) | しっかりしていることが多い。本当にわかった考えは、暗記した答えのようには消えない |
| 数字を書く手 | 何週間も書かないと、またぎこちなく感じることも。たいてい数日でもとにもどる |
夏休みの宿題と、どう付き合う?
計算ドリルや夏休みのワークは、最後の週にまとめて片づけるより、「1日1〜2ページを朝のうちに」のように細かく分けて進めると、それがそのまま「思い出す練習」になります。答え合わせで丸ばかり並ぶ必要はありません。手が止まった問題があれば、そこが2学期の前にもう一度見ておきたいところ。保護者にとっては、よい道しるべになります。絵日記に「せみを3びき見つけた」「すいかを8つに切った」と数を書きこむのも、立派な算数です。3年生の夏休みなら、2年生で覚えた九九を、お風呂で1つの段だけ唱えるくらいの軽い思い出しで十分です。唱え方のコツは九九の覚え方にまとめています。
夏休みならではの算数
夏休みは、ドリルの外にも数があふれる時期です。1年生では、ものの数を絵や図に整理する「かずしらべ」の学習もあり、生活科で育てた朝顔を夏休みに家へ持ち帰る学校もあります。毎朝咲いた花の数を数えて、カレンダーに書いたり、丸を積み上げて絵グラフにしたりすれば、学校で習ったことがそのまま生きる自由研究にもなります。
- おでかけと帰省。新幹線の号車や座席の番号、「あと何駅?」「あと何分?」は、そのまま数の練習です。
- 夏祭りやお買いもの。屋台やお店で、10円玉や100円玉を何枚出せばよいかを、子どもといっしょに数えてみます。
- 虫とり、貝がら拾い。つかまえたせみや拾った貝がらを、2つずつ、5つずつ数えると、2とび・5とびの入り口になります。
2学期の前に、ゆっくりもどる準備
- 最後の1〜2週間に、毎日短く。夏休みじゅう特訓する必要はありません。毎日集中した数分のほうが、ときどきの長い時間よりずっと効きます。
- ふだんの暮らしにまぜる。持ち物をそろえながら鉛筆を数える、おやつを分ける、カレンダーで「2学期まであと何日?」を数える。
- 覚えた計算は、1日1つか2つ思い出す。1年生なら10までのたし算・ひき算、2年生ならくり上がりのあるたし算、3年生なら2年生で覚えた九九。毎日少しずつ思い出すと、思っているより早くもどります。
- 自信を先に。ねらいはやさしく思い出すことで、テストではありません。答えが出るまで少し間があいても、それはまったく普通で、後退ではありません。
- 字がよろよろになっていたら。数分なぞり書きをするだけで十分です。ゼロからやり直す必要は、まずありません。


塾や家庭教師が必要?
ふつうの夏のさびなら、ほとんど必要ありません。塾や家庭教師が役に立つのは、夏休みより前から続いている、はっきりしたつまずきがあるときです。長い休みのあとのふつうのにぶりなら、そこまでは必要ありません。多くの家庭では、上のような気楽な習慣を1〜2週間続ければ、始業式までに差はすっかり埋まります。画面を使わない遊びのアイデアは家でできる数遊びにまとめています。夏休み用のドリルや問題集を何冊も買い足す必要も、ふつうはありません。学校から出た宿題を、毎日少しずつ終わらせることが、そのままいちばんの準備になります。
どんなときに、もう少しくわしく見る?
ふつうのさびなら、規則正しく練習を始めて2週間ほどで消えていきます。それを大きく過ぎても特定のところでつまずいたままのときや、単なるさびというより本当のむずかしさに見えるときは、2学期が始まってから、担任の先生に落ち着いて伝えてみてください。連絡帳にひとこと書くだけでもかまいませんし、夏休み前後に個人面談がある学校なら、それもよい機会です。クラス全体が夏休み明けに調子を取りもどしていく様子を見ている先生は、気になっていることが普通の範囲かどうかを聞くのに、いちばん早くて役に立つ相手です。2学期の習慣づくりについては新学期の算数でも扱っています。
保護者の方からよくある質問
夏休みに算数を忘れるのは本当?
おおむね本当です。長い休みのあいだに学力が少し落ちることは何十年も前から報告されていて、計算はとくに影響を受けやすい分野です。ただ、どれくらい落ちるかは研究や年齢でかなりちがい、夏休みが5〜6週間の日本では、米国の研究で言われるより小さめと考えてよいでしょう。
夏休み明け、どれくらいでもとにもどる?
低学年の子の多くは、短い練習を規則正しく2週間ほど続ければ、なめらかさがもとにもどります。夏に薄れるのは主に思い出す速さで、理解そのものではありません。思い出す練習を始めれば、すぐにもどってきます。
夏休みの計算ドリルだけで足りる?
多くの場合、十分です。大事なのは量より分け方で、最後の週にまとめてやるより、毎日少しずつ進めるほうが思い出す練習になります。ドリルのほかに、数を数える遊びやお手伝いの中の算数があれば、さらに安心です。
2学期に向けた準備は、いつから始める?
始業式の1〜2週間前からで、ふつうのさびには十分です。短く毎日のほうが、1回の長い時間よりうまくいきます。夏休みまるごとを使う必要はありません。



