「算数きらい」は算数不安かも:きっかけと、家でできる声かけ

ノートに書いている子どもの手のそばに、親の手がそっと置かれている。落ち着いた、急がない雰囲気。
この記事の内容
  1. 5〜8歳では、こんなふうに現れます
  2. 日本の子は、算数が「できる」のに「得意」と思いにくい
  3. どこから始まる?
  4. つい悪化させてしまいやすい関わり方
  5. 役に立つ声かけの言いかえ
  6. 宿題の「平和条約」
  7. 私たちのアプリの位置づけ

結論から言うと:算数の宿題の前におなかが痛くなる、プリントを前に小さく固まってしまう、6歳で「ぼくは算数ができない人だから」と言う。そんな様子が見えたら、それは算数不安かもしれません。めずらしいことではなく、性格の欠点でも、遅れのしるしでもありません。家での小さな変化によく反応し、その多くは練習の量ではなく、練習の「感じ方」に関わることです。

私たちは小さな子ども向けの数のアプリをつくっていて、子どもが書いた数字を読みとる仕組みを通して、ついさっきまでわかっていたはずのかんたんな答えの前で子どもが固まってしまう場面を、たくさん見てきました。その固まりは、たいてい算数の問題ではありません。算数の形をとったストレス反応で、そう考えて向き合うほうがうまくいきます。

5〜8歳では、こんなふうに現れます

算数不安が「算数がこわい」という形でそのまま表に出てくることは、ほとんどありません。小さな子では、別の形で現れます。

  • 体の不調。算数の時間の直前に、おなかが痛い、トイレに行きたい、急に眠い。
  • 小さく、静かになる。昨日はできていた課題を前に、目を合わせなくなり、肩がすくむ。
  • 自分を決めつけることば。「算数きらい」「どうせできない」を、決まった事実のように淡々と言う。
  • かんたんな問題で固まる。台所では3+2を言える子が、鉛筆を持って机に向かうと、同じ問題で頭が真っ白になる。
  • 先のばし。鉛筆を削りたい、消しゴムが見つからない。始めること以外なら何でも。
  • 問題に見合わない涙や怒り。目の前の問題のむずかしさにくらべて、反応が大きすぎる。

見分けるポイントは、ずれです。反応が、問題のむずかしさより大きいこと。ただ混乱している子は、質問をします。算数不安のある子は、そこまでたどり着けないことがよくあります。考えるより先に、気持ちがやってくるからです。

日本の子は、算数が「できる」のに「得意」と思いにくい

国際的な調査に、気になる結果があります。文部科学省・国立教育政策研究所がまとめた国際数学・理科教育動向調査(TIMSS2023)では、日本の小学4年生の算数の平均点は、引き続き国際的に高い水準でした。その一方で、「算数・数学は得意だ」と思う小・中学生の割合は減ってきていると報告されています。算数・数学への興味・関心は、男子のほうが女子より高い傾向も示されました。できる力があっても、自分では「できない」と感じている子がいる。算数不安を考えるうえで、知っておきたい背景です。

どこから始まる?

算数不安を育てやすいものはいくつかありますが、どれも本当は計算そのものの話ではありません。

  • 一度のつらい経験が広がる。計算カードのタイムが遅くて焦った日、黒板の前でまちがえた日。「7×8でつまずいた」が、いつのまにか「自分は算数ができない」に変わってしまいます。
  • 時間のプレッシャー。時計と競争させられると、考える時間が、追い立てられる時間に変わります。追い立てられた頭は、よく考えられるどころか、うまく働かなくなります。タイマーがねらっていることとは、正反対です。
  • くらべられること。「お姉ちゃんは同じ年にはもうできたのに」は、自分の伸びではなく、ほかの人を物差しにすることを子どもに教えてしまいます。

保護者の方からいちばんよく質問される4つめの原因についても、正確に書いておきます。そばにいる大人の不安です。シカゴ大学の研究者たち(Beilockら、2010年)は、低学年の担任の先生自身が算数に不安を持っていると、年度末には、その先生のクラスの女の子たちが「男の子は算数が得意」と考えやすくなり、算数の成績も低くなりやすいことを見いだしました。

この研究は先生についてのもので、宿題を手伝う保護者についてのものではありません。それでも、不安な大人の反応を子どもが受けとるという仕組みは、家の食卓でも真剣に考える価値があります。これはあくまで示唆で、決めつけるものではありません。算数の宿題が大きらいだった親のもとで、算数が大好きな自信のある子が育つことはいくらでもあります。ただ、算数のプリントを見て保護者の方が身構えているなら、お子さまもそれに気づいている、と考えておくのが自然です。

つい悪化させてしまいやすい関わり方

よくある反応子どもにとっては
時間を計る、時計を見せる考えることが競争になる。プレッシャーそのものが、防ぎたかったまちがいを生む
「もっとがんばって」「集中してないでしょ」問題は努力だと伝わる。本当の問題は、その場の空気のことが多い
途中で直すうまく進んでいたもの、つまり子ども自身の考えの流れを止めてしまう
「お母さん(お父さん)も算数は苦手だったから」なぐさめのつもりが、「うちの家系だから」「あきらめてもいい」と聞こえやすい
きょうだいや同級生とくらべる目標が「わかること」から「順位」に変わってしまう
「終わるまでやる」と長時間続ける疲れとイライラが積み重なり、最後の10分が最初の20分を台なしにする

これは、きびしい親かやさしい親かの話ではありません。表の項目はどれも、よかれと思ってのことです。ただ、すでにプレッシャーでいっぱいの場面に、さらにプレッシャーを足してしまいやすいのです。

役に立つ声かけの言いかえ

実際に口にすることばを少し変えるだけで、空気は大きく変わります。用意しておきたい言いかえをいくつか挙げます。

  • 「ちがうよ、もう一回」のかわりに、「どうやって考えたか教えて」。判定が会話に変わり、説明している途中で、子どもが自分でまちがいに気づくこともよくあります。
  • 「早くして」のかわりに、「ゆっくりでいいよ。ここには時計はないからね」。内心では時計を気にしていても、そう言ってあげてください。
  • 「お母さんも算数は全然だめだった」のかわりに、「お母さんも算数がむずかしいときがあったけど、練習したらできるようになったよ」。同じ正直さでも、結末がちがいます。
  • 「お兄ちゃんはすぐできたのに」のかわりに、ほかの人の話はいっさいしない。くらべるなら、先週のその子自身と。
  • 「このページが終わるまでやめないよ」のかわりに、「あと5分やったら、終わってなくても休けいにしよう」。やめる時間が見えていると、始めるハードルが下がります。
開いたノートと鉛筆の上で、短い休けいに両手を上に伸ばしている子どもの手。
イライラがやってくる前に、予定どおりの休けいを。なまけているのではなく、ちゃんと役に立っています。

宿題の「平和条約」

その場の気合いより、みんなが落ち着いているとき(泣いている最中ではなく)に決めておく少しの家のルールのほうが、うまくいきます。

  • 家での練習に、タイマーは使わない。学校がタイムを計ることはあっても、家まで計る必要はありません。宿題にタイムを書く欄があるなら、そこは学校の指示どおりに。それ以外の練習に、時計はいりません。
  • 短く。この年齢では、緊張した30分より、集中した5〜10分のほうが、いつでもまさります。
  • 最後まで言わせる。子どもが考え終わる前に、答えや訂正で割りこまない。
  • できたところで終わる。プリントの途中でも、正解した問題で切り上げます。
  • ほめるのは、正解だけでなく粘り。「最後まであきらめなかったね」は、正解のときだけの「すごいね」とはちがう届き方をします。
  • いつも同じ、見通しの立つ予定。子どもは予測できないことにストレスを感じます。「おやつのあとに10分、それでおしまい」と決まっているだけで、不安がひとつ消えます。
台所のテーブルにいっしょに座り、短い算数の活動をしている親子。
決まった時間に、短く。終わりが見えている練習は、始めるのも楽になります。
手書きの算数の問題が書かれたノートの上で、小さくハイタッチをする親と子どもの手。
正解だけでなく、がんばったことにもお祝いを。

私たちのアプリの位置づけ

ここは、よい心がけだけでなく、実際の設計の判断を示せる数少ない場面です。99 Math Animalsでは、子どもが数字を書いたのに、手書き認識が本当に何の数字か読みとれなかったとき、アプリはそれをまちがいとして数えません。書いたものを消して、もう一度書いてみようとやさしくうながすだけで、ハートは減らず、バツもつきません。

自信を持って書いたまちがった答えは、ちゃんとまちがいとして扱います。それは子どもに必要な本物のフィードバックだからです。でも、読みとれない線のかたまりはそうではありません。それは算数のまちがいではなく、書き方のつまずきだからです。不安でふるえた一回が、はっきりしたまちがいと同じように罰せられることがないよう、意図してそうつくりました。

とはいえ、この設計ひとつで算数不安がなくなるわけではありませんし、どんなアプリにもそれはできません。お子さまが算数のことで本当につらい思いをしているなら、どのアプリで練習するかより、この記事にあるような関わり方と、クラスでの様子を知る担任の先生の見立てのほうが、ずっと大切です。アプリ全般をくらべるなら、私たちのアプリにもそのまま当てはまる算数アプリの選び方のチェックリストを、九九を落ち着いて覚える方法は九九の覚え方をどうぞ。算数の苦手と算数障害のちがいは、算数が苦手なだけ?にまとめています。

保護者の方からよくある質問

親の算数ぎらいは、子どもにうつりますか?

低学年の担任の先生についての研究では、先生自身の算数への不安が、年度末のクラスの女の子の算数の成績の低さと結びついていました。保護者についての研究ではありませんが、不安な大人の反応を子どもが受けとる仕組みは、家でも起こりえます。ただし運命ではありません。自分の過去を正直に、引きずらずに話すほうが、隠すより役に立つことが多いものです。

計算カードや九九のタイム計測を、つらそうにしています。

学校で時間を計るかどうかは、先生と学校の方針です。家で決められるのは家のことで、学校でタイムを計っていても、家の練習まで時計を使う必要はありません。家が落ち着いた場所であるほど、学校での時間を計る場面も乗りこえやすくなります。つらさが続くときは、連絡帳などで先生に様子を伝えてみてください。

算数の宿題のたびに泣きます。普通ですか?

ときどきイライラするのは普通で、時間を短くする、タイマーを使わない、やめる時間を先に決めるといった工夫で、たいてい落ち着きます。ほとんど毎回泣く、長く続く、宿題が始まる前から強くおびえているといった場合は、クラスのほかの子とくらべて見られる担任の先生に、落ち着いて相談してみてください。

答えを教えずに手伝うには、どうすればいいですか?

正しい答えに飛びつかず、「どうやって考えたの?」と、子ども自身の考えを話してもらいます。途中で訂正したくなっても、ぐっとこらえて。自分の考えを説明しながらまちがえるほうが、正しい答えを渡されるより多くを学べます。大人の役目は、その考えが生まれるくらい、場を落ち着かせておくことです。

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