指で数えるのはダメ?

この記事の内容
指で数えるのは、悪いことではありません。何歳までにやめなければいけない、という期限もありません。
結論から言うと:指は普通の、役に立つ数の道具で、早く外すべき「補助輪」ではありません。脳の研究でも、指の感覚と数の感覚が結びついていることが示されています。準備ができる前に指から引き離そうとすると、助けになるどころか逆効果になりがちです。
例外は、ごく限られたひとつの場面だけです。クラスのみんなが先へ進んでかなりたつのに、同じ少ない数の、何度も練習した計算をいつまでも指だけで出している場合は、指を取り上げるのではなく、ほかのやり方へ少し背中を押してあげるとよいかもしれません。
私たちは小さな子ども向けの数のアプリをつくっていて、指を使う子の姿をいつも目にしています。数字を書く前に指を立てる、答えの途中で指で数え直す、そして「赤ちゃんっぽい」と心配になる年齢になっても、しばらく指を使い続ける。ここでは、「指はダメ」という考えがどこから来たのか、研究は実際に何を言っているのか、日本の1年生の算数ではどう扱われているのか、そして見直したほうがよいひとつの場面をまとめます。
「指はダメ」という考えは、どこから来た?
心配のもとは、もっともらしいけれど不完全な考えです。指で数えるのは補助輪のようなもので、それに頼る子はいつまでも本当の暗算に進めない、というものです。日本でも、1年生の秋ごろ、くり上がりのあるたし算を習うころに「指を使わずに計算しよう」と声をかけられたり、計算カードの宿題で指を折る姿を見て、保護者が心配になったりすることがあります。指を使う計算については、教育に携わる人のあいだでも意見が分かれています。
子どもに先へ進んでほしい、という思い自体は正しいものです。ただ、その前提にある「指は前に進むのをじゃまするもので、支えにはならない」という考えは、研究ではあまり支持されていません。

研究は、実際に何を言っている?
認知科学の研究が示しているのは、むしろ逆の方向です。「指の認識」(finger gnosis)、つまり見なくても自分の指を感じ分ける力を調べた研究では、この力がのちの算数の成績と関連していることがわかっています。その結びつきは強く、指の感覚をきたえる活動を幼児期の数の支援として提案する研究者もいるほどです。
脳画像の研究でも、指の表象にかかわる脳の領域が、大人が数の課題をしているときに働くことが見つかっています。指をまったく使わずに頭の中で計算している、訓練を積んだ数学者でもそうだとされています。ここから多くの研究者は、指は「ずる」ではなく、脳の中の「指の感覚」こそが、数の感覚を組み立てる足場のひとつだと考えています。
スタンフォード大学で数学教育を研究するジョー・ボーラー(Jo Boaler)氏は、この研究をもとに、幼い子の指の使用をやめさせることは、補助輪を外して前に進ませるのではなく、数の感覚を育てる大切な道具を取り上げることになる、と論じています。私たちは研究者ではないので、私たちの言葉をうのみにするのではなく、ボーラー氏の著作や、そこで引用されている元の研究にあたってみてください。ただ、研究の向きはかなり一貫しています。
日本の1年生の算数では、指やブロックをどう扱う?
日本の学校は、具体物を使うことにはっきり前向きです。学習指導要領は、「数と計算」の指導で、そろばんや具体物などの教具を適宜使い、数と計算の意味の理解を深めるよう求めています。1年生の教科書では、物の数をブロックや数図(点の図)に置きかえ、算数セットのブロックやおはじきを動かしながら、たし算・ひき算を学んでいきます。指はいわば、いつでも持ち歩ける自分専用のブロックです。
一方で、1年生の算数は、ブロックや指から自然に卒業していく道筋もていねいに用意しています。5月ごろの「いくつといくつ」で「10は7と3」のような数の分け方・合わせ方をくり返し、秋に習うくり上がりのあるたし算では、10のまとまりをつくって考えます。9+4を「9はあと1で10。4を1と3に分けて、10と3で13」と考えるやり方は、「さくらんぼ計算」として知られています。指を使わなくなるのは、取り上げられたからではなく、こうしたもっと速い道を手に入れたときです。
| 年齢・学年の目安 | 指の使い方としてよく見られる姿 |
|---|---|
| 3〜4歳ごろ(年少〜年中) | 計算よりも、数を見せるために使う(「4歳!」)。指で数えること自体が、まだ育っている途中。 |
| 5〜6歳ごろ(年長〜小1のはじめ) | 物を数えたり、少ない数のたし算をしたりするのに、1本ずつ指を折ったり立てたりして使う。 |
| 6〜8歳ごろ(小1〜小2) | 10や20までのたし算・ひき算に使う。大きいほうの数から数え足す、10をつくるなど、新しいやり方と並んで使われる。 |
| 8〜10歳ごろ(小3〜小4) | よく知っている計算では指が減り、新しい問題や大きな問題で使う。思い出す力やほかの方法が、少しずつ役目を引き継いでいく。 |

ちなみに日本では、手を開いた状態で、親指から順に折っていく「指折り」の数え方もよく見られます。片手でちょうど5、両手で10。この5と10のまとまりは、1年生の算数でも、そろばんの珠の並びでも大切にされている形です。
では、見直したほうがいいのはどんなとき?
指そのものではなく、やり方が「ひとつしかない」ことです。2+2のような、少ない数の、何度も練習した計算に、クラスの多くが先へ進んでからもかなりたつのに指だけで答えていて、もっと速い方法にまったく興味や気づきがない場合は、ほかの方法をそっと紹介してあげるのは理にかなっています。それでも、解決策は指を取り上げることではありません。2とび・5とびの数え方、5+5や6+6のような同じ数どうしのたし算、10をつくる、きまりに気づく、といった選択肢を指の横に足していき、答えへの道を2本、3本と増やしていくことです。
指を「次へのステップ」にするには
何かほかのものが用意できる前に指を取り上げるのではなく、指と並んで新しい方法を育てる習慣をいくつか挙げます。
- 役に立つあいだは、指を使っていいのが基本です。守らせる期限はありません。
- 指の代わりではなく、指と並べて、ほかの方法を声に出して見せる。「5と5で10だから、5と6はそれよりひとつ多いね」。
- 速くなったり、手順をひとつ飛ばせたりしたら、それを言葉にして気づかせる。準備ができる前に「飛ばしなさい」と求めるのではありません。
- 思い出す力は、指を禁止するのではなく、ゲームでゆっくり育てる。トランプで「合わせて10になる2枚」を探す神経衰弱などがおすすめです。
- 学校で指を使わないように言われて、お子さまがそれでかえって困っているなら、担任の先生に伝えてかまいません。研究の多くは、指を使える道具のひとつとして残しておくことを支持しています。

九九でも同じことが言える?
はい、同じ考え方が九九にも当てはまります。九九を覚えきる前に、指で2とび・5とびをして答えにたどり着くのは、まったく理にかなった方法です。唱えて覚える力が固まる前に指から引き離しても、速さは増えず、プレッシャーが増えるだけです。日本の九九は唱えて覚えるのが基本で、その落ち着いた進め方は九九の覚え方にまとめています。
大きなつまずきのサインになることはある?
まれですし、指を使うことだけでは判断できません。指が好きというだけでなく、量をとらえる、2つの量をくらべる、十分に練習しても基本的な計算を覚えられない、といった数の感覚全体のつまずきが長く続く場合は、クラス全体と比べて見てくれる担任の先生や、かかりつけの小児科医に伝えてみてください。必要に応じて、学校の特別支援教育コーディネーターなどにつないでもらえます。指で数えること自体は、何歳であっても、そのサインではありません。
保護者の方からよくある質問
指で数えるのは何歳までにやめるべき?
決まった年齢はなく、無理にやめさせる必要もありません。小学校の低学年まで、たし算にも九九のはじめにも指を使う子はたくさんいて、思い出す力やほかの方法が育つにつれて、自然に頼らなくなっていきます。
1年生で指を使って計算するのは遅れている?
遅れではありません。1年生の算数そのものが、ブロックやおはじきなどの具体物を使って計算の意味を学ぶところから始まります。大切なのは、10をつくる考え方など、新しい方法が少しずつ指の横に加わっていくことです。
先生に「指を使わないで」と言われました。どうすれば?
まずは先生のねらいを聞いてみてください。くり上がりの計算で10のまとまりを使ってほしい、という意味のことが多いものです。そのうえで、指を急に取り上げられてお子さまが困っている様子があれば、それも伝えてかまいません。家では指を禁止するより、10をつくる練習を遊びの中で増やすのがおすすめです。
九九を指で数えて出すのはダメ?
ダメではありません。指で2とび・5とびをして答えを出すのは、覚えきる前の自然な橋渡しです。唱える練習をくり返すうちに、指を使う場面は自然に減っていきます。



